動物の健康と命を守る医療の現場では、獣医師を中心にさまざまな専門職が連携して働いています。それぞれの職種について詳しく見ていきましょう。
獣医師は動物の診察・治療を行う医師であり、6年制の獣医学部を卒業後、国家試験に合格する必要があります。大学では解剖学や生理学、薬理学など幅広い科目を学び、臨床実習も行います。給与は経験や勤務先により異なりますが、平均年収は430〜600万円程度です。開業獣医師の場合はさらに高収入も期待できます。
動物看護師は獣医師の診療補助や入院動物のケアを担当します。2019年の法改正により国家資格となり、愛玩動物看護師の資格を取得するには、指定された養成機関で2年以上学ぶ必要があります。手術の補助や検査、飼い主への指導など業務は多岐にわたり、平均年収は300万円前後となっています。
医療事務として予約管理や会計業務、カルテ作成などを担当します。資格は必須ではありませんが、医療事務の資格があると有利です。飼い主対応や保険事務なども行うため、細かな事務作業を正確にこなせる能力が必要です。平均年収は250万円程度からスタートします。
近年需要が高まっている分野で、高齢動物や手術後の機能回復訓練を行います。専門の資格制度はまだ確立されていませんが、解剖学や運動生理学の知識が必要です。獣医師や看護師の資格を持つ人が専門的な訓練を受けて携わることが多く、平均年収は300〜400万円程度です。
歯科治療の補助や予防歯科を専門とする職種です。欧米では一般的ですが、日本ではまだ珍しい職種といえます。動物看護師の資格を基礎として、さらに専門的な歯科知識と技術を習得する必要があります。需要は増加傾向にあり、平均年収は280〜350万円程度となっています。
動物園や水族館、ブリーダーなど、動物の飼育に関わる職種も人気があります。それぞれの特徴と必要なスキルを見ていきましょう。
飼育員は担当する動物の餌やり、健康管理、環境整備などを行います。朝は早く、気温や天候に関係なく外での作業も多いため、体力が必要です。動物の生態について深い知識が求められ、生物学系の大学卒業が望ましいとされます。平均年収は240〜300万円程度です。
魚類や海洋生物の飼育管理、展示、繁殖などを担当します。水質管理や潜水作業など、特殊なスキルも必要となります。海洋生物学の知識に加え、潜水士の資格があると有利です。休日出勤も多く、平均年収は250〜320万円程度となっています。
犬猫などのペットの繁殖と育成を行います。遺伝や繁殖に関する専門知識が必要で、動物取扱の資格も必須です。24時間体制での世話が必要なため、生活との両立が課題となります。収入は扱う犬種や実績により大きく異なりますが、平均で300〜500万円程度です。
ペットショップでは動物の管理販売から接客まで幅広い業務を行います。小動物の扱い方や基本的な健康管理の知識は必須で、店内の清掃や在庫管理も重要な仕事です。動物取扱の資格は必要ですが、高校卒業後に現場で学びながら取得できます。給与は経験により異なりますが、年収220〜280万円程度がスタート時の目安となっています。
猫カフェやふくろうカフェなど、動物と触れ合える施設で働く職種です。動物の体調管理はもちろん、来店したお客様へのサービス提供や施設の衛生管理も大切な仕事です。接客業の経験があると有利で、動物取扱の資格も必要となります。年収は200〜250万円程度から始まります。
動物のしつけや訓練を行う仕事も、やりがいのある職種として注目されています。基本的な内容から専門分野まで見ていきましょう。
犬のしつけや問題行動の改善を専門とする仕事です。犬の習性を理解し、飼い主さんへ適切なアドバイスができる知識が必要です。民間の資格は数多くありますが、現場での実践経験を積むことが大切です。初任給は200万円程度からスタートし、経験を積むと年収300〜400万円程度まで上がります。
病院や福祉施設で活動するセラピードッグを育成する専門職です。動物のトレーニング技術に加えて、福祉や心理学の知識も必要となります。需要は増えていますが、まだ職場は限られています。年収は250〜300万円程度が一般的です。
公的機関で活躍する犬の訓練を行う専門性の高い職種です。警察犬訓練士は警察関係者として、また盲導犬訓練士は盲導犬協会などの職員として働くことが一般的です。専門的な訓練と経験が必要で、年収は300〜400万円程度となっています。
水族館でイルカの調教やショーの演出を担当します。水泳の技術と体力はもちろん、海洋生物への理解も必要です。競争率が高く、まずはアシスタントから始めることが多いです。初任給は200万円程度からスタートし、経験を積むと300万円程度まで上がります。
飼い主が留守の間、自宅で動物の世話を行う仕事です。1日に複数の依頼をこなすため、時間管理能力が重要です。動物取扱の資格は必要ですが、独立開業も可能な職種です。収入は依頼数により変動しますが、年間200〜300万円程度が目安となっています。
動物や自然の保護に関わる仕事も、社会的な意義が高い職種として注目されています。現場での具体的な業務内容を見ていきましょう。
保護された犬や猫の世話、新しい飼い主探しを行います。動物のケアだけでなく、適正な譲渡先を見極める判断力も必要です。公的機関での勤務が多く、公務員試験の合格が必要な場合もあります。給与は公務員給与規定に基づき、初任給は20万円程度からスタートします。
ケガや病気の野生動物の保護、治療、リハビリ、自然への復帰をサポートします。獣医師資格を持つ人が多いですが、一般スタッフとして働くこともできます。自然への深い理解と体力が必要で、年収は250〜300万円程度です。
地域での動物愛護活動や適正飼育の普及啓発を行います。ボランティアとして活動する人も多く、地域によって活動内容は異なります。専門的な資格は不要ですが、動物愛護管理法などの基礎知識は必要です。常勤職員の場合、年収は230〜280万円程度となります。
国立公園などで自然環境と野生動物の保護活動を行います。環境省の職員として働くケースが多く、公務員試験の合格が必要です。フィールドワークが中心なので体力も必要です。公務員としての給与体系に従い、経験により昇給していきます。
来園者への環境教育や、動物についての解説を行います。動物の知識だけでなく、教育プログラムを企画運営する能力も求められます。生物学や教育学の知識があると有利です。年収は240〜290万円程度が一般的です。
動物の研究に関わる仕事も、重要な選択肢の一つです。それぞれの分野での研究内容を見ていきましょう。
大学や研究機関で動物の生態や行動を研究します。通常は大学院まで進学し、専門分野での研究実績を積むことが求められます。研究費の獲得なども重要な仕事となります。給与は所属機関により異なりますが、年収400〜600万円程度となります。
動物の行動パターンや心理を研究する専門職です。研究機関での勤務のほか、動物園や水族館の専門スタッフとして働くこともあります。行動観察の技術と分析力が必要です。研究職として年収350〜500万円程度です。
医学研究などで使用される実験動物の飼育管理や実験補助を行います。専門的な資格が必要で、厳密な衛生管理や記録が求められます。製薬会社や研究機関での勤務が一般的で、年収は300〜450万円程度です。
野生動物の生態調査や個体数調査を行う専門職です。フィールドワークが中心で、長期の野外活動も必要となります。調査技術と記録・分析能力が重要で、年収は250〜350万円程度です。天候に左右される仕事ですが、自然の中で貴重な発見ができるやりがいがあります。
動物園や水族館、ペットフードメーカーなどで、動物の栄養管理や飼料開発を行います。生物学や栄養学の専門知識が必要で、動物種による栄養要求の違いを理解することが重要です。年収は300〜450万円程度で、研究開発職として働くことができます。
動物と直接関わらなくても、動物関連産業で活躍できる職種があります。さまざまな可能性を探ってみましょう。
ペットフードや用品の企画開発を行います。動物の習性や飼い主のニーズを理解し、商品化につなげる企画力が必要です。マーケティングの知識も重要で、年収は350〜500万円程度です。文系出身でも活躍できる分野です。
ペット保険の提案や契約手続きを行います。動物医療の基礎知識と保険商品の理解が必要です。営業職としての能力も求められ、年収は300〜450万円程度です。飼い主さんの不安に寄り添える仕事といえます。
動物関連の雑誌やウェブメディアの編集を担当します。取材力と文章力が重要で、動物の知識も必要です。出版社やウェブメディア企業での勤務が一般的で、年収は300〜400万円程度です。
動物に関連したイベントの企画運営を行います。飼い主参加型のイベントや、動物とのふれあい体験などを企画します。イベント運営の経験が重要で、年収は250〜350万円程度です。
飼い主が旅行中などの間、ペットを預かる施設を運営します。施設管理能力と動物の取り扱い経験が必要です。開業資金は必要ですが、独立して経営することも可能な職種です。収益は規模により異なります。
動物の仕事には資格がいるものといらないものがあります。資格がなくても始められる仕事を紹介します。動物が好きな気持ちと真面目に学ぶ姿勢があれば、まずは挑戦することができます。
ペットホテルでは、動物のお世話以外にも多くの仕事があります。受付での予約管理や飼い主さんへの説明、施設の清掃など、始めから資格は必要ありません。動物のお世話は先輩スタッフから教わりながら、少しずつ経験を積んでいけます。基本的なパソコン操作ができれば、受付の仕事からスタートできます。
動物園では飼育の仕事以外に、来園者向けのイベントを企画運営するスタッフも活躍しています。子どもたちに動物の解説をしたり、動物クイズ大会を開いたりする仕事です。明るい性格と子どもが好きな気持ちがあれば、楽しく仕事を始められます。休日のイベントスタッフとして、アルバイトから経験を積むこともできます。
ホームセンターやペットショップでは、ペットフードや用品の販売スタッフを募集しています。最初は商品の並べ替えや在庫確認からスタートし、徐々に接客や商品説明を覚えていきます。動物の飼育経験があると接客時に役立ちますが、なくても元気な接客態度があれば大丈夫です。
保護された犬や猫のお世話を手伝うボランティアは、資格がなくても参加できます。最初は施設の清掃や簡単な作業からスタートし、動物のお世話は経験に応じて任せてもらえます。ボランティア活動を通じて経験を積み、将来は正社員として働くことも可能です。土日だけの参加もできるので、学生でも始めやすい活動です。
動物病院でも受付事務は資格がなくてもできる仕事です。予約管理や会計業務、カルテの整理などが主な仕事になります。パソコン操作と丁寧な接客ができれば大丈夫です。動物看護の仕事に興味がある場合は、受付をしながら資格取得を目指すこともできます。
動物に関わる仕事は理系のイメージが強いですが、文系出身でも活躍できる職種はたくさんあります。具体的な仕事内容と必要なスキルを見ていきましょう。
動物園や水族館の飼育員は、生物学の知識があると有利ですが、文系出身でも採用実績があります。実際に現場で必要なのは、動物への愛情と観察力、体力です。また、来園者への解説や教育プログラムの企画運営では、コミュニケーション能力や企画力が重視されます。採用後の研修制度も充実しているため、基礎から学ぶことができます。
ペットショップやトリミングサロンでは、接客スキルや販売経験が重視されます。動物取扱の資格は必要ですが、入社後に取得することも可能です。特にペットショップでは、商品知識や接客マナー、販売技術など、文系の強みを活かせる場面が多くあります。管理職として店舗運営に携わることもできます。
ペット保険会社やペット用品メーカーのカスタマーサービス部門では、飼い主対応や相談業務が中心となります。傾聴力やコミュニケーション能力が重要で、文系出身者が多く活躍しています。動物に関する基礎知識は必要ですが、研修で習得できます。
ペット関連企業のマーケティングや商品企画部門は、文系出身者に適した職種です。市場調査や消費者ニーズの分析、新商品の企画立案など、幅広い業務に携わることができます。動物への理解は必要ですが、ビジネススキルがより重視される分野です。
動物雑誌やウェブメディアの編集、SNS運営なども文系出身者が活躍できる分野です。取材力や文章力、企画力が求められ、動物に関する知識は仕事をしながら深めていくことができます。デジタルマーケティングのスキルがあれば、さらに可能性が広がります。
これらの職種は、文系の強みを活かしながら動物と関わることができる仕事です。一方で、獣医師や動物看護師など医療に直接関わる職種は、専門的な教育と資格が必要となります。自分の得意分野と興味を考慮しながら、職種を選んでいくことが大切です。
最後に、動物に関わる仕事に役立つ資格について、具体的に解説していきます。資格は必須ではない職種でも、持っていると有利になることが多いです。
動物に関わる国家資格として代表的なのは獣医師免許と愛玩動物看護師です。獣医師は6年制大学を卒業後、国家試験合格が必要です。愛玩動物看護師は2年以上の養成機関で学び、国家試験に合格する必要があります。これらの資格は医療行為を行うために必須で、取得後は一生涯使える専門資格となります。
動物取扱の基礎資格
動物取扱責任者の資格は、ペットショップやトリミングサロン、ペットホテルなどで必要です。都道府県知事が指定する研修を受講し、試験に合格することで取得できます。2年ごとの更新が必要で、動物愛護や関連法規の知識が問われます。飼育や販売に携わる際の基本となる資格です。
トリマーの資格は民間資格が中心です。日本愛玩動物協会(JAA)や日本トリマー協会(JTA)などが認定する資格があり、実務経験に応じてグレードアップができます。専門学校での取得が一般的ですが、独学での取得も可能です。実技試験が重視される資格となっています。
そのほか、トリマー開業インストラクターは、トリミングサロンの開業や運営に必要な知識を持つです。売上管理、顧客情報の管理、予約システムの運用など、ビジネス面での知識に加え、毛玉の多い犬の追加料金設定方法や、シャンプー剤の選び方、はさみやバリカンのメンテナンスまで、実務的なスキルも学びます。
トレーナー向けの認定資格
ドッグトレーナーの資格も複数の団体が認定を行っています。たとえば、犬のしつけインストラクターは、犬種による特性を理解し、適切なしつけ方法を指導する専門家です。首輪やハーネスなどの道具の使い方、食糞や無駄吠えといった問題行動への対策、多頭飼いでの飼育方法まで、幅広い知識が求められます。
その他、ドッグトレーニングアドバイザーは、家庭犬の基本的なしつけについて指導する資格です。アイコンタクトやハンドサイン、基本的な命令(おすわり、伏せ、待て、おいで)の教え方、甘噛みの防止、玄関での対応など、実践的なトレーニング方法を習得します。
動物看護に関連する資格
愛玩動物看護師以外にも、動物看護に関連する民間資格があります。動物介護士や動物リハビリ介護士などの専門資格で、高齢動物のケアや機能回復訓練に特化した知識を習得できます。需要の高まる分野の資格として注目されています。
動物に関わる仕事は、医療や飼育、トレーニング、研究など多岐にわたります。直接動物と関わる仕事だけでなく、企画開発や保険、メディアなど、さまざまな形で動物業界に携わることができます。必要な資格は職種により異なりますが、基礎となる知識や経験を積むことで、自分に合った職種を見つけることができるでしょう。給与面では一般的な職種と比べてやや低めですが、動物が好きな方にとってはやりがいのある仕事となります。まずは興味のある分野でインターンシップやアルバイトを経験し、実際の現場を知ることから始めてみてはいかがでしょうか。